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研究内容

糖尿病患者のセルフケアを支援する

2017/6/23

セルフケアとは?

一般に「セルフケア」も「自己管理」も同じ意味で使われていることが多いかもしれません.私たちは敢えて「セルフケア」と「自己管理」という言葉を区別して使用したいと考えています.  簡単に言えば,「セルフケア」は「セルフ(self自己)」を「ケア(care気にかける)」するという意味なので,「自己」を「管理」するだけでなく,自分に関心をもち,気にかけて,労わることも含めて捉えたいという思いがあります.  また,「セルフケア」を中心概念として看護理論を構築したドロセア・E・オレムは,「セルフケア」を「個人が生命,健康,および安寧を維持するために自分自身で開始し,遂行する諸活動の実践である.Self-care is the practice of activities that individuals initiate and perform on their own behalf in maintaining life, health, and well-being.」と定義しています.この定義によれば,糖尿病のために食事制限することだけがセルフケアではなく,安寧 well-beingという言葉で説明しているように,自分らしく人生を歩むこともセルフケアだということになります.糖尿病もちつつ自分らしく生きることを支えるためには,このオレムの定義で捉える「セルフケア」はとても大事な意味をもちます.  安寧 well-beingや「自分らしく生きる」という言葉に,あいまいさを感じる人もいるかもしれません.でも,考えてみると,その人にとって何が安寧 well-beingで「自分らしいのか」は私たち医療者が決められることではありません.その個人の思い,信念,価値を尊重しつつ,「糖尿病をこのままほうおっておけば生命が脅かされる,でも,家族を養うためには仕事も大事」どうすることがベストじゃなくてもベターなのか,一緒に悩み考えるなかで,その人の主体性や意思決定を支える支援が重要であることもオレムの「セルフケア」理論は教えてくれています.  そのように「セルフケア」を考えると,糖尿病を良くするために必要とされる食事療法や運動療法だけが「セルフケア」ではないですし,「セルフケア」と言いながら,食事療法や運動療法だけに言及していることに時々違和感を覚えることもあり,「セルフケア」に含まれるものではありますが,治療のために必要とされる食事療法や運動療法といったセルフケアを「自己管理」(オレムのいう治療的セルフケア)としてあえて区別して,このHPでは使用しています.

2017/6/26

糖尿病患者さんのセルフケア能力に着目したわけ

私たちは糖尿病患者さんのセルフケアを支援するにあたって,患者さんのセルフケア能力に着目しました.

医療者は,糖尿病患者さんの病状が改善し,良い状態を保てることを大事に考えます.血糖値など検査データや症状の改善や,食事療法の遵守など患者さんの行動の変化など目に見えることで支援の成果を捉えようとするので,血糖値の改善など成果が見えなければ,食事や運動などの行動の問題に目が向きがちです.

食事や運動をどのように生活の中で行っているか,その行動を知ることは医療者として大事ですが,そこだけを見ていると援助は行き詰ってしまいます.セルフケアを行うためにその人がもっている力はどのようなものか,潜在する能力も含めて,セルフケア能力を知り,そこに働きかけて能力を高めたり,その人の持ち味や強みを活かすことが,その人らしくセルフケアするための支援につながると考えました.

そこで,私たちは,糖尿病患者さんを支援している看護師が捉えているセルフケア能力の視点にはどのようなものがあるかを調査しました(文献?).その結果明らかになったのが,セルフケア能力の要素です.

2017/6/26

セルフケア能力の要素について

質的研究によって明らかになったセルフケア能力の要素は8つでした.詳細はこちら
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/assist1/n-0262.pdf)です.

以下,8つの要素について簡単に説明します.これらの視点で患者さんのセルフケア能力をアセスメントすると患者さんを多角的に捉えることが出来,患者さんのもつ強みにも気が付くことが出来ます.患者さんがなさっている今の自己管理の努力や真意・意図にも気づけるかもしれません.十分でない能力を補うということも大切ですが,強みを活かすという視点でも支援の方法を検討することが出来ると思います.また,全体像を把握したうえで,患者さんの今関心のある所から進めたり,患者さんにどの力を伸ばしたいかを決めてもらうという方法あると思います.

注意してもらいたいのは,「患者さんの状況をどこか正しい場所にあてはめなければならない」というわけではないということです.同じ状況でも「モニタリング力」ともいえるし,「応用・調整力」とも言える状況もあると思います.また,どこにも当てはまらないから不必要な情報であるとも決めつけないでください.多角的な視点で,セルフケア能力をアセスメントし,目指すは,「糖尿病とともにその人らしい人生を」を支援することなので,そこにつながる吟味やディスカッションを大切にしてもらえたらと思います.
【知識獲得力】
 その方がもっている糖尿病や自己管理に関する知識についてです.知識があるから自己管理ができるというとそうとは限りませんが,糖尿病や自己管理について知識がないと自己管理は難しいので,必要な知識を提供する必要があります.知識を得ようとする姿勢は見られるか,話したことを理解して自分の知識にする力はどの程度か,ということも含めて,【知識獲得力】としてとらえられると,知識の提供の仕方も検討できると思います.
その人にとって必要な知識は何かを検討することが大切です.
 
【身体自己認知力】

 
糖尿病である自分の身体をどうとらえているか,自分の身体に関心をどのように向けているかについてです.糖尿病の知識がたくさんあっても,自分の身体のこととして関心が向けられていないと自己管理に取り組むのが難しいことも多いです.痛くもかゆくもなく,症状が出づらい糖尿病なので,自分が糖尿病であることを実感をもって捉えるのは簡単なことではありません.糖尿病についてどう思っているか,自分のこととしてどうとらえているか,改めて,患者さんに聞いてみてください.

【自己管理の原動力】

自己管理を実際に実行するためには,自己管理の必要性が分かっているだけではなく,「やりたい」「やっていこう」という気持ちになれるモチベーション,動機が必要です.最初は高いモチベーションがあっても,長く続けているうちに,いやになったり,やる気が出なかったりするのも人間として当然のことです.今目の前にいる患者さんはどんな気持ちで自己管理に取り組んでおられるでしょうか.

糖尿病患者さんの中には「しっかりやらない自分が悪い.」と血糖値が改善できない自分を責めて自責の念を強くしている方が多くおられます.そんな気持ちのままでは自己管理に取り組むのがさらにつらくなってしまいます.でも,患者さんに率直な思いを語ってもらっていると「100%ではないけれど,自分なりには頑張ってきたところがあるよね.」とか「最初に決めたご飯の量だけはずっと守ってきた」など,ご自身なりのこれまでの努力にも目を向けることが出来,少しずつでも継続していこうという思いを維持できることにつながることもあります.

【応用・調整力】
これは,指示された療法を自分の生活に合わせた効果的で,負担の少ない方法に工夫したり,調整したりすることが出来る能力です.これを行うには,【モニタリング力】が基盤となると言えますが,自分の生活を具体的に思い起こしてみることが出来ることや,自分の生活や血糖値の変化のパターンをつかむ,先を予測して備えるといったことが出来ることも強みになります.

患者さんは自然にやっておられることも多いのですが,「ゴルフの時は,低血糖になるので,〇ホール目でおにぎりを食べる」「ウヰスキーとしてウーロン茶を出してもらうように行きつけのお店に頼んでおく」など患者さんは自分の生活に合わせた工夫を行っておられます.これらは【応用・調整力】という患者さんの強みとしてとらえることが出来ます.
【糖尿病とともに自分らしく生きる力】
これは,糖尿病をもちながらも自分らしく生きる力についてです.自分の生活のなかで喜びや楽しみを感じられなかったり,生きがいがもてていない状況で,自己管理に取り組もうという気持ちになれるでしょうか?逆に言えば,生活の中で喜びや楽しみ,生きがいがもてていることは,自己管理をするうえでのベースとなる大事な力をもっているとも言えると思います.糖尿病のために自己管理することと,自分らしく生きることは,相反するもので,2者択一の選択肢のように考えがちですが,その人らしくどうバランスをとるか,あるいはうまく組み込んで調和させるのか,を考えてみるのが大事ですし,患者さんと一緒に考え,それを支援するのは看護職の大事な役割だと思います.

【モニタリング力】
モニタリング力は,患者さん自身が考え,判断し,自己管理を決定したり,選択したりしながら,主体的な自己管理を行うために大切な能力です.患者さんがどんな情報から,何を判断基準に,自分の自己管理を評価しているのか,どんな意思決定で自己管理を行っているのか,こうした視点で患者さんの自己管理を捉えなおしてみると今まで見えなかった患者さんの自己管理を行う思考のプロセスが見えてきます.
モニタリングが得意な人は,この力を伸ばすことで,全体の自己管理力はかなり高まります.モニタリングがあまり得意でない人も中にはいますが,家での生活をお聞きし,ご自身での評価や判断をお聞きして,一緒に振り返りを行う中で,この思考プロセスを一緒に進めることを意識すると,それが患者さんのモニタリングになっていきます.

【サポート活用力】
セルフケアは「自分のために自分自身で行うもの」ではありますが,自分で難しいことは人に助けを求められるというのも大事なセルフケア能力です.
医師や看護師にも分からないことはちゃんと聞いてきて,お友達のサポートもうまく使って,上手に自己管理している人もいれば,もう少し周りを頼ってもいいのではと思っても,自分でやることに重きを置いている人もいるので,サポートの活用の仕方は様々です.
サポートの活用状況とご本人の希望を鑑み,よりよい支援を検討していくことが大切です.

【ストレス対処力】
心配事があったり,精神的に落ち着かない状況では,自己管理に気持ちを向けることはできません.精神的ストレスが高い状況では,まず,そちらの改善を検討することが必要でしょう.日頃からご自身で,気分転換が図れていたり,うまく対応できる力をもっておられる人は,それもセルフケアを継続して行っていくうえで,ご本人の強みとなります.